今より“もう少し”|砥部焼すこし屋(愛媛県・砥部焼)

今より“もう少し”|砥部焼すこし屋(愛媛県・砥部焼)

|1.日々の暮らしに馴染むうつわ「砥部焼」

 

砥部焼(とべやき)とは、愛媛県砥部町を中心に作られる陶磁器を指します。

ぽってりとした厚みのある形状と、少し灰色味のかかった白の素地が特徴。江戸時代に誕生し、昭和51年には伝統的工芸品として指定された焼き物です。厚手かつ重量感もあるため、欠けやヒビが入りにくく丈夫。夫婦喧嘩で投げつけても割れないという逸話から別名・喧嘩器とも呼ばれるのだとか。身近なところでいえば、うどんや蕎麦の鉢などによく使用されています。

 


砥部焼(左)・・・一般的な素地である有田焼(右)と比較すると、
ぽってりとした厚みのある形状と少し灰色味のかかった白の素地が特徴

 

 


そんな砥部焼の伝統を受け継ぎながら日々モノづくりに挑戦している窯元のひとつ、『砥部焼すこし屋』の松田知美さんにお話を伺いました。

松田知美さん。砥部町無形文化財の祖父を持つ夫の歩さんと共に『砥部焼すこし屋』を営む。

 

 

 

 

|2.四国一の焼物の里・愛媛県砥部町

 

―すこし屋さんが窯を構える愛媛県伊予郡砥部町とはどんなところですか?

 

田舎の住宅街みたいな感じですよ。周りにお家も何軒かあって。
数十年前まではこの辺一体で大きな窯があったそうなのですが、今は車で数分走らせたところに窯がいくつかあるくらいです。

 

―砥部町内にもいくつか窯があるんですね。

 

そうですね。窯が分かれた時に、夫の祖父がこの奥まった場所をもらったみたいで。
祖父がこの窯を使用しなくなったこともあり12年ほど前に私たちもこの土地に移ってきました。

 


毎年春になると工房裏の桜が満開に。

 

 


―現在、すこし屋さんでは何名の方が働いてらっしゃるんですか?

 

正社員さんとパートさんで9名、に私たち夫婦ふたり…合わせて11名ですね。
土の成形や窯での焼きをメインとする“つくり”担当が4~5名。残りが“絵付け”や梱包作業などを担当しています。
夫が“つくり”の主をしつつ、実際に土に向かって成形をしたり窯焚きをしたりしていますね。

 

―ご主人の歩さんは社長業もしながら “つくり”もされているとは!ちなみに知美さんはどんなお仕事をされていますか?

 

私は一応“絵付け“がメインで。でもその他諸々も担当しています。事務だったりも。

 

―ご夫婦で主を分担しながら従業員の方々とモノづくりをされているんですね。

 

 


1Fは“つくり”の場、2Fは“絵付け“の場として、場所自体も分けて作業。

 

 

 

|3.「もう少し面白く」「もう少し挑戦的に」

 

―現在11名で制作をしているすこし屋さんですが、どのようにして誕生したかなどのきっかけについて伺いたいです。

 

はじめは“砥部焼松田窯”という名前で、砥部焼と有田焼の学校や窯元でロクロ・絵付を学んだ夫がひとりで制作をしていました。

それと同時に、愛媛県の窯業技術センターという焼物の試験場のような場所でグループ活動も行っていたんです。
その活動メンバーのほとんどが、家業として焼物を手掛けている若手の窯元さんたちで。
普段自分たちが作っているうつわや家業で制作しているような商品とは違う、“もう少し”面白い、“もう少し”挑戦したモノづくりをしてみようという思いを込めて『すこし屋』の名前でグループ活動をしていました。

 

―『すこし屋』は家業のモノづくりより“もう少し”の気持ちからスタートしたグループ活動の名前だったんですね!何とも粋なネーミングです。

 

そうなんです。残念ながらそのグループ活動は2~3年で幕を閉じてしまいました。

ただ、その中で夫が一番若手だったこと、家業の窯を継いでいなかったこと、そして私との結婚がきっかけとなって、グループの名前を引き継ぎ『砥部焼すこし屋』を設立しました。2005年のことですね。

 

―ご結婚も重なって、良いタイミングでスタートを切ったんですね。

 

すこし屋のロゴ。松のマークは最初の窯名である“松田窯”から。

 

 

 

|4.時間をかけて手仕事で生み出されるうつわ

 

―2005年に設立してから日々砥部焼と向き合い続けているすこし屋さんですが、その砥部焼を作る工程について教えていただきたいです。

 

そうですね。大まかに言うと、“成形→削り→乾燥→素焼き→絵付け→釉薬がけ→本焼き”という手順を経て出来上がります。
その日の気候や湿度に合わせて乾燥時間や窯内の温度などを都度調節しながら、そのほとんどを手仕事で行っています。

 

―数多くの作業工程を経て出来上がるんですね。うつわ1つが完成するまでは大体何日くらいかかるものなのでしょうか?

 

1個ずつ焼くわけではないのでものによってなのですが、今だと早くても大体2ヶ月くらいかな。

 


[一つずつ丁寧な手仕事で制作されるうつわ。工程や作業内容については後日別記事にて詳しくご紹介いたします。]

 


―なるほど。丁寧な手仕事で長い時間をかけ1つ1つが出来上がっていくんですね。
ちなみに、商品が出来上がるまでの手順の中で、知美さん自身が好きな工程や楽しい作業、もしくは苦手だと思う部分はありますか?

 

う〜ん…そうですね。苦手だと感じるのは私がメインで担当している“絵付け”ですかね。絵や模様を描くこと自体は楽しいけれど、元々美術やデザインを勉強していた訳ではないので、いつまで経っても難しいなとは思います。
あと好きなところでいうと、お客さんからの依頼で新しいものを絵付けしたときですかね。焼き上がって窯から出てくるまで仕上がりが分からないのは楽しみの一つです。

 

―工房の上のギャラリーでも商品の購入ができるということもあり、手に取ったお客さんのリアクションをそのまま感じることもできるのも素敵ですね。

 

そうですね。新しく生み出した商品を手に取ったお客さんから実際にいいリアクションがもらえると『そうでしょ!そうでしょ!』と嬉しくなります。

 

―知美さんご自身が一番気に入っている作品や、思い入れの強いうつわなどはありますか?

 

初期に作った小紋柄のうつわですかね。
小紋柄は初期の頃に考案したのですが、今でも注文を貰い続けている人気の柄になっています。

 

小さなお花が描かれた小紋柄。着物の柄をモチーフにしていてクラシックかつ大人な風合いが人気。

 

 

|5.定番も、新しいものも、作り続ける

 

―知美さんの感じる、砥部焼の魅力や他にない良さとはなんでしょうか?

 

やっぱり手仕事が多く残っている部分ですかね。つくりの部分など所々機械は入るんですけど、それは本当に一部分だけで。ひとつひとつ手仕事で全てやっているので完全な機械生産でないというのは魅力があるんじゃないかな。
あとは、そんな手仕事でやっているのにそれほど高くないお手頃な値段で買えるっていうところが砥部焼の良いところかなと思います。

 

―手仕事が生み出す温もり感は砥部焼ならではだと私も思います。そんな砥部焼を生業とする窯元さんも多くある中で、この『砥部焼すこし屋』の自慢や強みについてご自身で感じることはありますか?

 

そうですね…まずは凄く良いスタッフに恵まれているという点ですかね。
それとうちの特徴として、マットな質感になる釉薬を使用しており、それが最近は浸透しつつあるのかなとも思います。ツヤのあるうつわとは雰囲気が違うので好んでいただけることも多いです。

 

ー私自身もこのマットな質感が凄く好きで、サラッとした手触りと口当たりの良さも魅力的だなと感じています。今回一緒に制作したマグカップやフリーカップも、釉薬でマットな質感を出しているんですよね。

 

その通りです。ただ鼻周りの白い部分は釉薬がかかっていません。ここは少し悩んだところですね。
釉薬というのはザブッとかけるので全体的にピンクになったり、白になったりします。ですが、今回はキャラクターデザインの都合上、鼻周りだけが白色・・・。そのため、この部分だけ釉薬を弾く薬を塗り、白抜きに仕上げました。

 

―なるほど。だからこの鼻周りだけは本体の質感とは少し異なり、磁肌の質感のあるざらっとした仕上がりになっているんですね。

 


鼻周りのみ磁肌の白色。釉薬がかかった全体はピンク色に。

 

 

―最後になりますが、知美さんの今後の目標や近い未来に思い描いている将来像などはありますか?

 

そうですね・・・とにかく『作り続けること』ですかね。
先程お話しした小紋柄の定番のうつわはもちろんですが、新しくデザインしたものも作らなくなってしまえば、自然と無くなっていってしまう。だからこそ、作り続けていくことが大事かなと思います。今後も窯を続けていけるように頑張っていきます。

 

―いっしょにモノづくりしているこのプロジェクト「Chara’ft(キャラフト)」も、すこし屋さんが釜を続けていく一つのきっかけになったら嬉しいなと思います。これからもよろしくお願いします。

 

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